日本全国の“地勢と気象”に注目する著者
が、歴史の謎に新たな光を当てる。数
千年の長きにわたり、日本文明を
存続させてきた「環境・民族」
の秘密を“地形”から解き明
かすシリーズ集大成の一冊!
なぜ大阪の街は「五・十日」(ごとう
び)渋滞が名物なのか。「不合理」
に息づく商売の原点。
五十日(ごとうび)の渋滞は、
大阪の名物だ。
東京も五・十日は、混む。しかし大阪の
五・十日の渋滞は、東京の比ではない。
あるパーティで大阪商工会議所の
理事と一緒になった。
私はあまり期待を持たず、その理事に
五・十日の疑問を投げかけてみた。
その理事は「顔を見に行くんですよ」
とあっさり答えた。
それが五・十日渋滞の解答であった。
そうだったのか、大阪商人は、五・十
日に商売相手の顔を見に行くのか。
決済日に、相手の会社へ行く。
そのついでに、お茶をご馳走になる。
お茶を持ってくる若い
女子従業員をひやかす。
その娘のお茶の淹れ方や、ファッ
ションを誉めたりする。
お茶を飲みながら、商売相手とほと
んど冗談だけの雑談をする。
そこでは、相手の顔色を見る。
顔の表情を見る。相手の眼差しを見る。
皮膚の色つやを見る。見ることを
通じて、相手の健康状態や
精神状態も知る。
五感のすべてを使って、商売相手と
その会社の様子を感じ取る。
ゴルフ焼けした自分の顔を相手に見せ、
自分は元気であることを知らせる。
屈託のない表情によって、自分は商売
相手としてまだ信用できるという
メッセージを送る。
会うことによって、お互いの信用を
確認し、信用を交換し合う。
大阪商人にとって、五・十日は「信用
を交換する決済日」となっている。
大阪商工会議所の理事の「五・十日は、
顔を見に行くんですよ」という答えは、
大阪商人の核心を突いていたのだ。
商売とは信用であり、大阪商人はその
原則を今でも大切に守っている。
そのため五・十日の大阪は、
大渋滞となってしまう。
それに比べて、空中を飛んでくる情報
に頼る「インターネット・ビジネス」
は、なんと頼りなげで、かつ
胡散臭いのだろうか。
以前、文芸評論家の故・谷沢永一さん
と大阪で2人で飲む機会を得た。
2人とも酒でいい気持ちになったところ
で、「どのようなとき、あの豊かな発想
が、次から次へと生まれてくるんで
すか?」と谷沢さんに聞いた。
谷沢さんは、いともたやすく
企業秘密を明かしてくれた。
「このように人と酒を飲み、楽しく
話をしているとき、フッと何か
が浮かんでくる。
そのキーワードをメモしておく。
1人で机に向かって何かを考え出そう
とするときは、ろくでもない雑念しか
浮かばない」と笑っておられた。
谷沢さんのびっくりするほど単純で簡単
な原理が、水準の高い人の心を打つ
文明評論に繋がっていく。
新しい知は、情報のやり取りの中で生ま
れる。知とは、一見関係のない情報
を結びつけ、「新しい関係」を
創造していく作業なのだ。
竹村公太郎『日本史の謎は「地形」
で解ける:環境・民族篇』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!