毎号、古今東西の名著を読み解く
今回取り上げられたのはサン=テグジュペリ
作の名作『星の王子さま』です。
王子が一輪の花に抱いた思いから
伝わってくる本当の愛や絆とは──
────────『今日の注目の人』──
◆ ただあなたがいてくれるだけで ◆
鈴木秀子(文学博士)
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私たちの人生や仕事でも、感情に振り
回され、欲得に目が奪われている限り、
本当に大切なものは見えてきません。
私の知人でニューヨークに
住む女性がいます。
娘さんが発達障碍の一つであるアスペルガー
症候群と診断された時、女性はなかなかそ
れを受け入れることができませんでした。
自分が病気の子を育てるなど全く
想定していなかったからです。
しかし、何事も飾らずに本音でぶつかって
くる娘さんと日々接する中で、女性は
お互いの違いを認め合い、大きな
心で抱きかかえることを学びました。
そして、本音で関わった分、親子の絆、
信頼は他の誰よりも深くなり、濃密な
家族の時間を過ごすことができる
ようになったのです。
そこに湧き上がるのは、障碍の有無
を大きく超えた「あなたという存在
は、ただいてくれるだけでありが
たい」という本当の愛情です。
王子(星の王子様)が一輪の花に対して
抱いた思いも、おそらくそのような
ものではなかったでしょうか。
「おれたちは、もう、おたがいに、
はなれちゃいられなくなるよ。
あんたは、おれにとって、この世で
たったひとりのひとになるし、おれは、
あんたにとって、かけがえのないもの」
というキツネのセリフもまた、本当の愛
や絆とは何かを教えてくれています。
「一粒の雨の音に心を留めてみよう。……。
月刊誌『致知』 2016年4月号
連載「人生を照らす言葉」P110
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。 感謝!