目も耳も聞えない世界とは、どんな
ものなのでしょうか。
「朝も夜も来ない」
「世界は一向に変化しない」
そう表現するのは、盲ろう者の
荒 美有紀さんです。
ある日、突然視力を失い盲ろう者に
なった荒さんが迫りくる恐怖と闘
われたご体験談にじっくりと
耳を傾けます。
────────『今日の注目の人』──
◆ 突然訪れた、その日 ◆
荒 美有紀(東京盲ろう者友の会理事)
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──その間も、病気は少しずつ進行
していったのですね。
そうですね。4年生になると、
ひどく頭痛がして目が白く
霞むようになりました。
私は視力は2・0と自信があった
だけに、いきなりのことに一瞬
「まさか」とは思いました。
でも、最初は病気が進行したとは
思わないで、夜中に本を読みすぎ
てそのせいかな?くらいにしか
考えなかったんです。
しかし、日に日に視界は白くなり、
頭痛も激しくなっていくんですね。
やっとの思いで病院に駆け込んで、気
がついたら緊急手術になっていました。
麻酔から醒めると、体中にいろいろ
な管がついていました。
目は白く霞んで、意識ももうろうと
していて、自分が生きているのか、
死んでいるのかも分からない
状態でした。
──手術は成功したのですか。
先生は「体力が回復すれば自然に見え
るようになるよ」とおっしゃいました。
でも、実際には応急処置が精いっぱい
で、腫瘍をすべて取り除けないくらい
脳の症状が悪化していました。
ある日、病室内にある個室のシャワー
に入った後、気分が悪くなってしば
らく横になったんです。
少しして目を開けると、真っ暗でした。
突然、何も見えなくなっていたんですね。
本当に動転してしまって「ママ、ママ。
助けて、先生を呼んで」と大声で
母の名前を呼び続けました。
ICUで点滴を受け、少しずつ目に
光が戻ってきましたが、そのうちに
シャッターが下りたように全く見
えなくなってしまったんです。
自分に何が起きたのかも分からず、
「なんでなんでなんで……」を
ずっと連発していました。
──耳がほぼ聞こえなくなっているうえに
失明という現実を受け止めなくては
いけなくなった、と。
その頃は母の手をずっと握りしめて、
一日中泣いてばかりでしたね。
ちょっとでも手を離すと、周りの状況
とか、近くにいる人の様子とか何もか
も分からなくなってしまうんです。
朝も夜も来ない。
世界は一向に変化しない。
まるで魂が抜けてしまったか
のような毎日でした。
※「どんな時も誰かの役に立つ
生き方をしていきたい」
そう語る荒さんは、いかにして絶望と
悲しみを乗り越えられたのでしょうか。
『致知』 2016年4月号
特集「夷険一節」P48
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。 感謝!