古き良き日本の心を、独特な感性と偏見の
ない公平な眼差しで、克明に書き記した
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。
明治以降、失われゆく日本の心を八雲は
どのように見ていたのでしょうか。
────────[今日の注目の人]───
★ 小泉八雲が目指したもの ★
池田雅之(早稲田大学教授)
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八雲がバンクーバーを出航して横浜港に
到着したのは、1890年の4月4日。
桜がほころび始めた春、空は晴れ上が
り、無数のカモメが船の周りを飛び
交い、遠くには美しい富士山が
見えたと言われていますが、
八雲は初めて見た日本の
印象を「日本への冬
の旅」の中で次のように記しています。
……改めて港の光景を眺めると、その
美しさは想像を絶するものがある。
光の柔らかさといい、遠方まで澄み切った
感じといい、すべてを侵している青味が
かかった色調のこまやかさといい
(中略)
すべてが澄明だが、強烈なものは何もない──
すべてが心地よく見慣れぬものではある
が、強引なものは何もない。
これは夢の持つ鮮やかさ、
柔らかさというものだ!
この文章から、八雲は横浜に上陸して
すぐ、まさに日本との決定的な出合い
を果たしたことが伝わってきます。
また同時に、親しい友人に宛て、「ここ
は、私の霊がすでに1,000年もいる所の
ような気がします」と、後に日本が終
の住処となる八雲の運命を暗示する
かのような手紙も書き送っています。
そして、早朝の横浜港に到着した八雲は、
早速、人力車で横浜の街を巡ります。
その印象を記録したのが、「東洋の
第一日目」という作品です。
八雲はとりわけ、車夫や街ゆく人々の
眼差しに“驚くほどの優しさ”を感じ、
次のようにその感動を綴っています。
このような思いやりのある、興味のまな
ざしや笑みを目の当たりにすると、初め
てこの国を訪れた者は、思わずお伽の
国を彷彿としてしまうことだろう。
おそらく、競争社会のイギリスやアメリカ
で人生のあらゆる辛酸を舐めた八雲にとっ
て、人々も自然も時間の流れも穏やかな
日本は、一つのユートピア(理想郷)の
ように映ったのでしょう。
また……
※全身全霊で日本文化を
体験した小泉八雲。
その豊かな感性から紡ぎ出された
日本の原風景は、本誌でじっくり
と堪能してください。
『致知』2016年5月号
特集「視座を高める」P36
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。 感謝!